MBDは万能ではない──導入しないという判断も、立派な戦略
モデルベース開発(MBD)は、多くのメリットが語られています。
品質向上、手戻り削減、上流での検証、属人化の回避──どれも正しい話です。
その一方で、現場を見ていると、ある違和感を覚えることがあります。
それは、「MBDを導入すること自体が目的になっていないか?」 という点です。
MBDはあくまで手段です。
どんなに優れた手法であっても、すべての会社・すべての製品に適しているわけではありません。
今回は、あえて「MBDを無理に導入しなくてもよいケース」について考えてみます。
試作コストが極めて安い場合
ハードウェア試作のコストが低く、
- 試作を何度も回せる
- 実機での検証が容易
- 失敗のコストが小さい
このような環境では、モデルで事前に作り込むメリットは相対的に小さくなります。
MBDは「作る前に考える」ための手法ですが、実機で簡単に試せるのであれば、
「まず作って、動かして、直す」という開発スタイルの方が速いケースもあります。
開発リードタイムが非常に短い場合
例えば、
- 数週間〜1、2か月で開発が完了する
- 要求が頻繁に変わる
- スピード最優先のビジネス
こうしたケースでは、モデル作成や環境構築の初期コストが、
そのまま足かせになることがあります。
MBDは中長期的には効いてきますが、
短距離走の開発では、その効果が出る前にプロジェクトが終わってしまうことも少なくありません。
製品単価が安く、品質要求が限定的な場合
製品単価が安く、
- 多少のばらつきが許容される
- 機能がシンプル
- 厳密な検証が求められない
このような製品に対して、フルセットのMBD環境を導入すると、
開発コストが製品価値を上回るリスクがあります。
MBDは、
- 品質要求が高い
- 不具合の影響が大きい
- 安全性や信頼性が重視される
分野でこそ、本領を発揮しやすいです。
組織としてMBDを維持できない場合
MBDは、導入して終わりではありません。
- モデルレビュー
- ルール整備
- 教育・育成
- ツール更新
といった運用が前提になります。
小規模な組織や、人の入れ替わりが激しい組織では、
「導入したものの、数年後には誰も使っていない」という状態に陥ることもあります。
「合わない」のに導入することで起きること
MBDが合わない状況で無理に導入すると、
- モデルを作ることが目的化する
- 現場が疲弊する
- MBDそのものへの不信感が生まれる
結果として、「MBDは使えない」という誤った評価が社内に定着してしまいます。
それでもMBDを検討すべきケース
一方で、
- 製品が複雑化している
- 将来の派生開発が多い
- 品質トラブルが事業リスクになる
- 開発規模が今後拡大する
こうした兆しがある場合、
今は合わなく見えても、将来を見据えて部分導入するという判断は十分にあり得ます。
おわりに
MBDは強力な手段ですが、万能薬ではありません。
導入するかどうかを考える際に重要なのは、
- 自社の製品特性
- 開発スピード
- 組織規模と継続性
を冷静に見極めることです。
「今回は導入しない」という判断も、立派な戦略です。
MBDを正しく“手段”として使うために、
合う・合わないを見極める議論が、もっと増えても良いのではないでしょうか。

